その34.若菜 上          ヒカル 四十歳

 

11.第三王女に対する夕霧と柏木の心情

 

 夕霧大将は第三王女の婿候補に挙げられていたこともあるので、その第三王女がヴィランドリー城の自分の住まいである北東の町のすぐ近くに暮らすようになったのが、ただごとは思えません。ヒカルが住む南の町に一通りの挨拶に出向く折々には、第三王女が住む離れにも寄って、ごく自然に気配や有様を見たり聞いたりしました。

 住まいの主はまだ大層若く、おおらかな様子が窺われます。表向きの格式はいかめしく、仕える人たちも世の例になりそうな仕草をしていましたが、実際はそう大して際立った奥ゆかしさなどは見えません。侍女たちもしっかりした年配の者は少なく、若やかで美しい容貌の者の中でも、ひたすら花やかに気取った者が、数が分からないほど多く集まっていました。おしとやかで、何の苦労も感じさせない住まいと言えるものの、何事ものどやかに見えながら、内心では落ち着きがあるようにはとても見えません。

 人知れぬ憂いを持っている者でも、気持ちが晴れ晴れとわだかまりもない者たちに交じっていると、その人たちに引きずられて、気配や仕草も同じように朗らかに振る舞っていました。明け暮れ、子供じみた遊戯にふけっている童女たちの様子をヒカルは気に入らず、苦々しく見ていますが、「こうであるべきだ」と一概に決めつけない性格でしたから、そんなことも自由にさせていて、「そうやっていていたいのであろう」と見ながら、注意することはありませんでした。それでも当人がなすべきことは十分に教え込んでいきましたので、少しはしっかりしたようになって行きました。

 

 そうした様子を見ながら、夕霧大将も「なるほど、世の中はうまく進まないものだ。とは言っても、あの紫上の態度や気遣いは長い年月を経ても、ともかく不満を漏らす人もおらず、物静かさを第一にして、さすがと言えるほど心が美しく、他人の悪口も言わず、自分の品格を落とすこともなく、奥床しく振る舞っておられる」と、いつか垣間見た紫上の面影を忘れることができずに思い返していました。

「自分の妻もしみじみとした深い情愛はあるが、人に自慢できるだけ勝った才覚までは持ち合わせていない。妻との結婚生活も落ち着いて、今は見馴れすぎてしまった気の緩みが出てきたのか、ヴィランドリー城に様々に集まっている夫人たちがとりどりの興趣を見せているものの、父への思いは同じ一つになって離れがたくしているのが羨ましい。そんな中で第三王女はこの上もない身分の女性なのに、とりわけた扱いをしている様子がなく、人前に見せる飾り物のようにしている」と見受けながら、「身の程知らずの気持ちは取り立ててはないものの、容姿を拝める機会はないものか」と関心を寄せていました。

 

 右衛門府督の柏木は、常に朱雀院の邸に伺って、親しく伺候していた人でしたから、朱雀院が第三王女を可愛がって大事に扱っていた意向などを仔細に見知っていましたし、朱雀院が第三王女の縁組を検討していた頃、「朱雀院も私との縁組も悪くはないと考えている」といった噂を聞いていましたから、第三王女があまり大事にされていないようなのが非常に口惜しくて、胸が痛い思いをしつつ、依然として第三王女への思いを捨てきれません。その頃から相談相手になっていた第三王女の侍女からの便りで、第三王女の様子を知るのを慰みにしているものの、何の甲斐もありません。

「やはり紫上の勢いに押されている」と世間の人も言い伝えているのを聞いて、「恐れ多いことだ。私だったら、そんな思いはさせないだろうに。とは言うものの、私はヒカル様と較べることができる分際でもないのだが」と感じつつ、いつも乳母ヴィヴィアンの娘のドニーズ(Denise)を責め立てながら、「この世の中は定めがないものだ。准太政天皇が長年の本意を果たそうと、修道院に籠るようになったとするなら」と、絶えず思い続けていました。

 

 

12.ヴィランドリー城の球蹴りで柏木、第三王女を見て煩悶

 

四月頃の空がうららかな日に、兵部卿や柏木などがヴィランドリー城を訪ずれたので、ヒカルが応対しました。

「閑静な住まいにいると、今時分が一番退屈で気を紛らすことができない。公私ともに大きな事がない。どうやって一日を過ごしたらよいのか」などと話しながら、「それにしても、夕霧大将は今朝がた、城内にいたようだが、どこへ行ったのであろう。こんなに退屈しているから、弓でも射させてみたいものだが、射弓好きの若い連中も見えなくなった。残念だが帰ってしまったのか」。

 

「大将は北東の町に大勢の人を集めて、球蹴りをさせて見物しております」との報告を聞いたヒカルは、「確かに球蹴りのような激しい運動は眠気覚ましになる。賢い選択と言えるが、それだったらこの町でやったらどうだろう」と連絡しますと、皆がこちらに移動して来ました。多くの若い公子が交じっていました。

「球を持って来たか。誰と誰がいるのか」と尋ねました。

「これこれの者どもが参っております」。

「こちらの方で球蹴りの試合をしたら良いだろう」とヒカルは言って、出産後のサン・ブリュー貴婦人が王城に戻った頃だったので、本館の東の離れのひっそりした場所で、遣り水などが行き交う広々とした辺りに場所を見つけました。太政大臣アントワンの息子たち、次男の頭の弁ロラン三男の兵衛の佐フェリックス四男の大夫の君ルシアンなどすでに大人になった者も、まだ年下の者もそれぞれ普段よりも競技に興じていきました。

 

 段々と暮れかかって来ましたが、「風が吹かず、格好の日だ」と皆が興じているので、弁の君もじっとしてはいられず、仲間に加わりました。

「弁官ですら、我慢できずに参加しているではないか。上官といえども近衛府の若い役人たちがどうしておとなしくしているのか。私が君たちの歳の頃には、ぼんやり見過ごしてしまうのは残念に思ったものだ。何と言っても軽快な競技だからね」とヒカルが言うので、夕霧も柏木も皆、庭に下りて美しい夕映えの中、見事に咲き乱れた花の下で動き出しました。

球蹴りはあまり体裁がよくなく、静かでもない激しい競技ですが、場所や人柄にもよります。趣のある庭の木立が濃い霞に包まれ、色々な色のつぼみが開き出している花木に、ほんの少しばかり黄色がかった薄緑色の芽が萌え出しています。ちょっとした遊びにすぎませんが、上手か下手かの違いはあるものの、木々の下で球を奪い合います。「自分も負けてはいない」と思わせ顔の中で、柏木がふいに競技者の中に交じりましたが、その足技は並ぶ者がいないほど巧みでした。容貌が大層美しく艶っぽい人物が、身のこなしに注意を払いながらも、さすがにバランスを崩してしまうのがおかしく見えます。

競技している場所と階段の間の桜の蔭に寄っている人々も、花のことを忘れて夢中になって見物していました。ヒカルも兵部卿も隅のベランダに出て見物しています。

 

 経験を積んだ技の数々が披露され、回が進んでいくにつれ、身分の高い人たちも乱暴になっていき、帽子の額ぎわがずれてしまっています。夕霧大将も、身分の高さを考慮すると「いつになく荒っぽい」と見えますが、人より一段と若々しく美しく、桜色の上着は気馴らしていてやや柔らかくなっていて、ズボンの裾が少し膨らんでいるのを心持ち引き上げながらも軽々しくは見えません。

 洒落てくつろいだ姿に花びらが雪のように降りかかる中、夕霧はふっと見上げて萎れた枝を少し折って、階段の中段あたりに腰を下ろして休息しますと、それに続いて柏木も階段に座りました。

 

「花が乱れ散りすぎだね。(歌)春風は花の咲いている辺りを避けて吹いてくれ 桜の花が自分の意思で散りがたくなるのを見定めようと思う」といった歌を口ずさみながら、柏木が第三王女の住まいを横目で見てみると、例のようにあまり慎みがない気配がします。外の様子を見ている侍女たちの色とりどりのドレスの袖口や裾がカーテンの隙間からこぼれ出ていて、まるで過ぎ行く春の旅の道中で神に手向ける供物を入れる弊(ぬさ)袋のように見えました。衝立などもだらしなく脇に片付けられていて、近づきやすい俗っぽさを感じさせます。

まだごく小さく可愛いペルシャ猫をちょっと大きめの猫が追い回しているうちに、急にカーテンの端から走り出したので、侍女たちはびっくりして騒ぎ立て、ドレスをざわつかせながら動き回って、衣づれの音がやかましいほどでした。

小猫はまだ人によくなついていないのか、大層長くつけてある綱が物に引っかかって、絡まってしまいました。小猫が逃げようとして綱を無理に引っ張ると、カーテンの端がまくれ上がってしまいましたが、すぐに直そうとする者もいません。柱の側にいた侍女たちも、慌てくっておどおどしている気配でした。

 

すると衝立から少し奥まった所に、長衣姿で立っている女性がいました。階段から西側の二つ目の間の東寄りでしたから、丸見えでした。紅い梅の長衣なのでしょうか、濃い目や薄い衣装を順々に重ね着していましたが、色の区別が花やかで、綴じ本のへりのように見えました。表着は桜色の織物なのでしょう。長い髪がふさふさとしていて、二十一から二十四センチメートルほど、糸に撚りをかけたように大層美しげに靡いていました。髪の裾は端麗に切り揃えられていて、容姿や髪が振りかかっている横顔は言いようもなく、上品で可愛らしいのです。夕刻なのではっきりとは見えず、奥の方が薄暗くなっている感じがするのがひどく物足りなく残念でした。

球蹴りに夢中になっている若い公子たちが、花が散っていくのを惜しみもせずに競い合っている様子を見ようとして、侍女たちは奥が丸見えになっているのに気づいていないようです。小猫がしきりに鳴くので振り返った長衣姿の女性の顔立ちや仕草はおっとりしていて、柏木は「若くて美しい人」と直感しました。

 

室内の奥まで丸見えになっているのに気づいた夕霧大将は「まずいことになった」とはらはらしたものの、まくれ上がったカーテンを直しに寄って行くのも軽率なようなので、奥にいる長衣姿の女性が気付くように咳払いをすると、その女性はすっと引き込みました。実のところ、夕霧も非常に物足りない気がしましたが、猫の綱が緩んでカーテンが閉まってしまったたので、溜息を漏らさずにはいられません。

まして夢中になって見とれていた衛門督の柏木は胸がいっぱいになって、「あの女性はどなたでもない。侍女たちの中にいながら、薄暗くともはっきりと識別できる長衣姿は見間違えることができない気配をされていたのだから」と気にかかって忘れることができません。

「柏木はさりげない顔を見せているが、確かに第三王女を見てしまったのだ」と夕霧は第三王女が気の毒になりました。

柏木はどうしようもない気持ちを慰めようと、綱から放された小猫を招き寄せて抱き上げてみました。とても良い香りを放ちながら、愛しい声で鳴くのが長衣姿の女性を思い起こさせるので、味わい深いものでした。

 

ヒカルは二人を見つけて、「若い高官たちの席が階段、というのもどうであろうか。こちらに来なさい」と本館の南面の間に招き入れたので、二人は移りました。兵部卿も座を改めてヒカルと対話を始めました。二人を除いた公子たちは南面に敷かれたカーペットに置かれた丸いクッションに次々と腰を下ろして、アーモンド菓子や洋ナシ、オレンジなどといった格式張らない物が色々な箱の蓋に盛られているのを、冗談を交わしながら食べています。次いで乾燥肉や干し果物を肴にしてワインを酌み交わしました。ただ柏木だけは思い詰めたように、ややもすると桜の木を見やってぼんやりしていました。夕霧はそれを察して、「あのカーテンから垣間見えた面影を思い出しているのだろう」と解釈していました。

 

「それにしても、『あんなに端近くに寄って来たのは軽率だ』と柏木も感じていることだろう。それに較べてこちらの紫上の様子を見ていると、ああした振る舞いはされない。それを考慮に入れてみると、なるほど、こういったこともあるから、第三王女は世間での評判が高いわりには、父上の内心の愛情が薄いのだろう」と納得がいきました。「やはり、内向きでも外向きでも配慮に欠けていて、あどけない可愛らしさはあるが、父上にとっては信頼のしがいがないのだろう」と見極めました。

一方の宰相の君の柏木はそんな欠点などに少しも考えが及ばないまま、思いも寄らない物の隙間から、ほのかに垣間見ることができたのは、以前からの私の思いが通じた証しであろう」と限りなく嬉しい気持ちになりながらも、物足りなさもありました。

 

 ヒカルは皆の前で若い頃のことを話し出しました。

「太政大臣は何事でも私と競い合って、勝負を争ったものだが、球蹴りだけはとても敵わなかった。ちょっとした遊びに遺伝などはないだろうが、やはり血筋というものは争えないものだ。今日の貴君の出来栄えは見事だったよ」と柏木に話しました。

柏木ははにかみながら、「世に役立つような面では生ぬるい家風でございます。(歌)我が子の能力は 官吏登用試験に 楽々合格するほどだ この子は我が家の家名を高めてくれるだろう といった歌のように子孫に伝え残そうとしたところで、球蹴りの技など、子孫にとっては特別なことでもありません」と謙遜しますので、「いや、そんなことはない。何事でも人より抜きん出ていることなら、書き留めて伝えるべきであろう。家伝などの中に書き留めたら、興味深いことだろうに」と冗談ぽくヒカルが言いました。

 

 柏木は匂い立つような清らかなヒカルを見るにつけ、「このような人物を見馴れてしまうと、どんなことがあっても、他の人に心を移すことがあるだろうか。どのようにしたら、せめて第三王女から哀れみを受けるように、気持ちをなびかせることができるだろうか」と思いを巡らせますが、とてもかけ離れた身分の差に気付いたので、胸が塞がったまま、ヴィランドリー城を去りました。

 

 夕霧大将も馬車に同乗して、道中、話を交わしました。

「やはり、この季節の退屈な折にはヴィランドリー城を訪れて、気晴らしをするものだね」と柏木が言うと、夕霧は「父上が『今日のような暇な時を待ち受けて、桜の花が散らないうちに、また来るように』と話していました。次回は行く春を惜しみながら、今月中に小弓を持って再訪しませんか」と約束し合いました。

 

 ソーミュールで別れる所まで、話し続けましたが、柏木はまだ第三王女のことを話したいようです。

「ヒカルさまは今でもずっと紫上のところにばかりおられるようですね。どれだけ寵愛されておられるのだろう。第三王女はどう思っているのだろう。朱雀院が秘蔵されて躾けられたのに、今はそうでもなくなって、他の婦人に負けておられるようなのは心苦しいことだ」と不愉快そうに話しますと、「滅相もない。そんなことはありませんよ。父上は通常の女性とは違って、紫上が小さい頃から育て上げたので、親しさの度合いが違っているように見受けます。父上は第三王女のことを何かにつけて、大事に尊重されている、と聞いています」と夕霧が答えました。

「いやいや、そんなことは言わせませんよ。皆、すっかり聞いていますからね。随分と気の毒な折りもあるようですよ。朱雀院から並々ならない寵愛を受けた人が、そうなっているのはあまりにひどいことだ」と柏木は第三王女を気の毒がりました。

 

(歌)花から花へと 飛び移っていく黒歌鳥は どうして桜の木を選別して 自分のねぐらにしないのだろう

「春の鳥が桜の枝を選んで留まらない気持ちが不思議に思える」と柏木は独り言を呟いていますが、夕霧大将は「つまらぬおせっかいを焼くものだ。さては」と勘繰りました。

(歌)深山の木に ねぐらを決めているカッコウでも 美しい桜の花を嫌がるだろうか

「仕方のないことなのだから、そう一途になることはないでしょう」と夕霧は答えて、面倒になったので、それ以上は触れずに、他のことに言い紛らわして別れてしまいました。 

 

柏木はいまだに父親が住むソーミュール城の東の対屋に独り住みをしていました。結婚に対する期待はありますが、長年こうした独り住まいをしていると、自分のせいでもあるのに張り合いがなく、心細い折々もありますが、自分の分際ならどうしてこのくらいの願いが叶わないことがあろうか」と自負しながら、第三王女を垣間見た夕刻の後からは、物思わしく塞ぎ込んでしまいました。

「何かの機会にまた、ああした風にでもよいから、ほのかな気配だけでも見てみたいものだ。ともかく、何をしても人目につかない身分の女性であったなら、ちょっとした隙を見て、理由付けが容易な謹慎とか方違えと称して、気軽に出向いて、何とか隙をうかがうこともできるのだが」などと、やるせない思いを紛らわすこともできません。

 

「何かの手段で、深窓の貴女に『これだけ深い恋心を抱いております』とだけでも知らせたいものだ」と胸が苦しく、気が晴れないので、第三王女の乳母ヴィヴィアンの娘のドニーズにいつものように手紙を送りました。

「先日、風に誘われて、ヴィランドリー城に分け入りましたが、何だか第三王女の心証を悪くさせるようなことがありました。その夕刻から、悩ましい心地に乱されるようになってしまい、(歌)見ないというのではなく かと言ってはっきり見たわけでもなく 今日は一日中ぼんやり そちらの方を眺めて過ごすのか といった心境でぼんやり暮らしています」。

(歌)よそながら お見かけしただけですが 手折ることができない悲しみが深く 桜の花の夕影を 

   名残惜しく思い出します

と詠んでいましたが、ドニーズは文面の「先日」の出来事など知らないので、「いつもの恋煩いにすぎない」と感じました。  

 

第三王女の側に人があまりいない折りでしたので、ドニーズは柏木の手紙を持って行きました。「この人がこんな具合に根気よく手紙を寄こしてきますので、煩わしくて困っています。悩ましげな気持ちで苦しんでいる様子を想像すると、『見てはいられないと同情してしまう』と我ながら分からなくなってしまいます」と笑いながら、手紙を渡しました。

「嫌なことを言いますね」と第三王女は何気なく答えて手紙を広げて読みましたが、「はっきり見たわけでもなく」と書かれた箇所を読んで、思いがけずカーテンの端がまくれ上がってしまった日のことに思い当たって、顔が赤くなってしまいました。

常日頃、ヒカル様が何かのついでがある度に、「夕霧大将には見られないようにしていなさい。貴女はまだ子供っぽいところがあるから、ついうっかりして覗かれてしまうこともあるだろうから」と注意を促していることを思い出しました。

「『こんなことがありました』と夕霧大将がヒカル様に報告されたなら、どんなにお叱りを受けることだろう」と、夕霧とは違う人に見られてしまったことにまで考えが及ばずに、そのことだけが気になってしまうのは、まだ幼さが残っているからでしょう。

 

ドニーズは第三王女がいつもより相槌もうたずに面白くなさそうにしていて、それ以上は話す必要もないので、人目を忍びながら、例のように返信を書きました。

「先日は、素知らぬ顔をされていましたね。目に余る行為だと恨んでおりましたが、『はっきり見たわけでもなく』ということは、どういうことでしょうか。なんてまあ、わけありげなこと」と走り書きしました。

(歌)が届きそうにもない 山桜の枝に 思いを掛けるなどと 今さら 顔色に出さないでください

「無駄なことですよ」と書いていましたが、この歌を拠り所として、第三王女を「山桜の上」と呼ぶ者も出て来ました。

 

 

                  著作権© 広畠輝治Teruji Hirohata