その26.常夏           (ヒカル35歳)

 

3.内大臣の苦悩と雲井雁の昼寝、ヒカルの王妃教育

 

 内大臣は今回名乗り出たヒヤシンスのことを、「ソーミュール城内の人たちも認めずに軽んじているし、世間でも『啞然とすることだ』と非難している」と耳にします。

 次男の少将ロランが何かのついでに「太政大臣が本当のことか」と尋ねたことを話しますと、「なるほど。しかしあちらでも、長年、噂にも出なかった賎しい娘を迎え入れて、大切にしているではないか。めったに他人の悪口を言わない太政大臣も、私の家のことになると、聞き耳を立てて悪口を叩く。今回もまさにその好例であろう」と返答しました。

 あれこれ批判を受けながらも、アントワンは内心では「ヒヤシンスは神聖ローマ帝国に敵対するオスマン・トルコ帝国とを結ぶ橋渡し役の一翼を担って、何かのたしになってくれるかもしれない」との、淡い期待を抱いていました。

 

「太政大臣が夏の町の西の対に引き取った姫君は、中々非の打ち所がない様子が見える女性のようですよ。兵部卿などが大層ご執心で、まとわりついているとのことです。誰もが『並大抵の器量ではあるまい』と推察しています」とロランが続けました。

「いやいや、それは『あの太政大臣の娘だ』と思うからこそ、月並みではないと見なすだけの話だよ。世間の人の思いというのは、皆そうしたものだ。だから必ずしも優れた女性、ということでもないだろう。世間並みの器量であったなら、もっと前から評判が立っていたはずだ。太政大臣は非難される塵垢もつかず、この世で有り難すぎるほどの評判や有り様を得ながらも、惜しいことに本来なら晴れがましい正夫人に娘が生まれて『全く申し分がない』と大切に育てて羨ましがられるはずなのだが、他の夫人たちも含めて子供が少ないことが心もとないのだ。

 身分は低いものの、サン・ブリュー上が生んだ姫君はまたとない宿縁に恵まれているようだから、いずれ何とかなるだろう。しかし今回の女性はひょっとすると実の子ではないかもしれない。あの人は怪しげな所もある人物だから、何か腹積もりがありそうだ」と悪口を言います。

 

「それにしても、その女性をどういう縁組にさせるのだろうか。結局、兵部卿に付き添わせるのだろう。兄弟たちの中でも兵部卿はとりわけ太政大臣と仲が良いし、人柄も際立って立派で、婿になるのに相応しい間柄だからね」などと続けながら、やはり自分の娘の雲井雁について相変わらず口惜しく思っています。

「こちらの方でも、様子ありげな振る舞いをさせて、『誰に嫁がせるのだろう』と多くの男を不安がらせ、やきもきさせたものを」と嫉みながら、ヒカルの息子の中将が「それ相応の官位に昇らない限りは雲井雁との結婚は許し難い」と考えていました。

「太政大臣が丁重に口添えをして来て、何度も申し込んで来るなら、根負けしたようにして聞き入れてやろう」とも思っていますが、中将の方は一向に焦ってはいないようなので面白くありません。

 

 そんなことを思い廻らせているうちに、前触れもせずに気軽そうに雲井雁の部屋を訪れました。少将ロランもお供しました。

 たまたま雲井雁は昼寝の最中でした。薄物の単衣を着て臥していましたが、暑苦しくは見えません。大層可憐で小柄な身体つきでした。薄い衣服から透いて見える肌付きが非常に美しい。優しげな手つきで扇を持ったまま腕枕をしていましたが、投げ出されたままの髪はさして長くも煩わしそうでもなく、髪端の方が感じよく見えます。

 侍女たちも物陰で横になって休んでいましたので、姫君は父親の訪問をすぐには気付きません。アントワンが扇を叩きますと。何気なく見上げた眼差しが可愛らしく、恥じ入って頬を赤くするのも親の目には美しく見えます。

 

「うたた寝はいけません、と注意してあるのに。なぜ、こんなしどけない恰好で寝ているのです。侍女たちも近くに侍っていないのは、けしからぬことだ。女というものは、常に自分の身に気を使って守るべきなのです。気を許して、無造作に振舞うのは品がないことです。とは言っても、とても賢そうに身を引き締めて、哲学・知恵の聖者カトリーヌが威儀正しく聖書を誦している、というのも小憎らしいことですがね。目の前にいる人にも、あまりよそよそしくして遠慮深げにしてしまうのは、気高いようでも愛嬌がなく、素直な心とは言えません。

 太政大臣が未来の王妃にと、サン・ブリュー姫をしつけている方針は、何事でも一通りは通じていながらも、格別に目立った才気がないように見せることです。それでもはっきりしないで、人をまごつかせる所がないように、とゆるやかに育てています。それも至極もっともなことですが、人間という者は考えにも行動にも生まれつきの性向がありますから、自然とその人なりの特徴が出て来ます。ですから、サン・ブリュー姫が成人して、王宮仕えに出た時の、世間の評判に非常に関心を持っていますよ」と話します。

 

「貴女を王宮に上げて、様子を見てみたい、との願いは実現が難しくなってしまいましたが、何とか世間の人から物笑いにならないように、と他の人の身の上を色々と聞く度に心配しています。貴女を試そうと、親切さを装う男からの願い事には、ここしばらくは靡いてはいけませんよ。考えていることがあるからね」と我が子がとても可愛いと思いながら忠告しました。

 父の話を聞きながら、雲井雁は「昔はどのようなことでも深く考えることもなく、あの実際に困り果てた騒動が起きた時も、さして面目もないとも感じなかった」と今になってその場面を思い出すと、胸が塞がり、ひどく恥じ入ってしまいます。アンジェ城の祖母の大宮からも「音沙汰がないのをいつも恨んでいる」といった便りがあるのですが、父がそんな風に話すのを気兼ねして、大宮の許を訪ねることもできないでいます。

 

 

4.ヒヤシンス君の西洋双六競技と、内大臣への早口の応答

 

 内大臣はソーミュール城の北の対に引き取ったヒヤシンス君を「どういった風に扱っていこうか。こざかしい考えで迎え入れたものの、周りの者どもが貶すからと言って、ジェノヴァに送り返してしまうのも軽率すぎるし、気が狂ってしまったようにも見える。この城に引き籠めたたままでいると、『本当に面倒を見る気持ちがあるのか』と人が批判するのも嫌である。姉妹となる貴婦人アンジェリクに預けて、ジェノヴァからやって来たオドケ者の役割をさせようか。世間では『弱点がありすぎる』と貶されている容貌もそんなに言われるほどでもないのだし」と考えて、ソーミュール城に里帰りをしていたアンジェリクに「ヒヤシンスを貴女に預けることにする。まだフランスの慣習に不馴れで、見苦しいところもあるだろうが、年功を積んだ侍女などに頼んで、遠慮なく仕込んでください。若い侍女たちの弄りの対象となって、笑い種にはしないで欲しい。あの娘はひどく軽率なところがあるので」と笑いながら頼みました。

 

「まあ、そこまでおっしゃられるほど変人でもないでしょうに。兄のアンジェの中将などが類のない人物と思い込んだ期待に添わなかった、と言うだけのことでしょう。本人はこうした具合に騒がれているのはきまりが悪いと思われているでしょうが、その一方では長所もありますでしょうに」とアンジェリクは大層気品のある様子で答えました。

 冷泉王と同じ十七歳になったアンジェリクは、一つ一つが取り立てて美しい、というのではないのですが、高貴さとすがすがしい所になつかしげな様子が添えられていて、味わいのある梅の白い花の蕾が開け出した朝ぼらけの印象を内大臣が感じて、「まだ話し足りなそうに奥床しく微笑んでいる点が人と違っている」と見やっています。

「やはり、何やかや言っても、息子の中将はまだ二十歳前の若年だから、調べ方が不充分だったのだろう」と内大臣は言い足しますが、ヒヤシンスにとっては気の毒な言われようです。

 

 しばらくして、内大臣はアンジェリクの部屋を出た後、ヒヤシンスがいる部屋を覗いてみますと、内カーテンをいっぱいに開いて、王宮の舞姫を務めていた若い侍女と西洋双六トリクトラック(Trictrac)を遊んでいました。相手がサイコロを打とうとする時は手をひどくもみ合わせながら「小さい数字が出ますように」と唱える声はひどく早口でした。

「さても困ったものだ」と内大臣はお供の者が先に進もうとするのを手で制して、両開きのドアの細い隙間から、なおも衝立の向こうの二人に見入っています。

 相手の侍女も夢中になっていて、「お返ししますよ」とサイコロを入れた筒をひねり回しながら、すぐには振り出そうとしません。筒の中に思いを詰めているのでしょうが、とても浅薄な様子です。

 

 ヒヤシンスは小顔で愛嬌があり髪も麗しく、罪も軽そうな様子ですが、額が非常に狭い点と声が軽薄なところが台無しにしています。とりたてて美人というわけではありませんが、血は争えないものです。鏡に映る自分の顔と似ていることを思い合わせると、全く宿縁が恨めしくなりました。

「こんな風に暮らしていると、窮屈で落ち着かないでしょう。政務が多忙なので、訪ねて来る暇もありませんが」と話しますと、例のように非常な早口で、「こうしていられるだけで、何の不足がありましょう。長い歳月、確かでもないまま、お目にかかりたいと恋焦がれていたお顔を、始終拝見できないことだけは、良い賽の目が出ないような、物足りない気持ちがいたしますが」とまくし立てました。

 

「そうだね。私が身近に召し使う侍女に、中々適当な者がいないので、そうした役割で私の側にいられるようにしたい、とかねがね考えてはいるが、やはりそうはいかないものだ。普通の奉公人であったなら、多少の身分の高低はあったとしても、自然に一緒に仕事をしているうちは、人の眼にもつかずに気楽にいられる。それが、あの人は誰それの娘、この人は某の子と知られるようになってしまうと、親や兄弟の面汚しになってしまう例が多くあるからね。まして内大臣の娘だ、となると」と言いかけて、それ以上は言い濁してしまいました。

 ところがヒヤシンスはそんなことには無頓着で、「いえいえ、自分が偉いと自負して人と交じり合おうとするから、窮屈になってしまうのです。私なら便器の処理係でもいたします」と答えるので、内大臣は堪え切れずに笑ってしまいました。

 

「便器掃除など、貴女に似つかわしくない役目ですよ。こうしてたまに出逢える父親に孝行をしたい、という気持ちをお持ちなら、貴女が出す声を少し静めてください。そうしてくれたら、私の寿命もきっと延びるから」と苦笑しながらふざけて冗談を言います。

「これは生まれつきの舌のせいでございます。幼い頃から亡き母がいつも苦にしていて、よく愚痴っておりました。『ジェノヴァの教会の早口で説教をまくしたてる尊師がたまたま居合わせた産屋で生まれたので、それにあやかって私も早口になったのだ』と歎いておりました。何とかして、この早口の癖を直さねば」と必死な顔つきをしますので、「それなりに親への孝行心が強そうなのは殊勝なことだ」と内大臣は感じています。

「その産屋に居合わせた尊師こそが厄神だったのだろう。尊師は何かの罪を犯した報いを受けたのであろう。聖書の悪口を言うと、その報いの罰の中に、話すことができなくなったり、どもりになったりするのが挙げられているからね」と言いながら、「自分の子ではあるが、高貴さを重んじるアンジェリクに逢わせるのが恥かしい。どういった具合で、よく調べもせずに、こんなに変な育ちの者を引き取ってしまったのだろう」と反省しました。

 

「人前に出すと、多くの人に見られて悪評が言い触らされてしまう」と思い返したりしますが、「アンジェリク貴婦人が里帰りされている際は、時々伺って侍女たちの行儀作法などを見習いなさい。これと言った取柄がない人でも、自然と身につくものです。そんな心積もりでアンジェリクに出逢ってみなさい」と言いますと、「本当に嬉しいことでございます。ただただ寝ても覚めても、何とかして皆様方に認めていただけるようにと、願っておりました。常日頃から、それ以外のことは考えずにおりました。お許しをいただけますなら、水を汲んだり運んだりする仕事もいといません」と大層上機嫌になって、一段と早口でしゃべり続けますので、「言っても無駄だ」と落胆してしまいました。

 

「何もそんな薪拾いのような仕事はしなくともよいから、とにかくアンジェリクの許に行きなさい。但し早口の手本になった尊師だけは遠ざけておくように」と冗談を言いますが、理解できずにいます。同じ大臣と呼ばれる人物の中でも、内大臣は大層清らかで、堂々と花やかな風采をしており、並みの人間なら気後れをしてしまう人物であることも分からないでいます。

「それでは、いつアンジェリク様の所に伺ったらよいのでしょう」と尋ねますので、「吉日を選んで、と言うべきところだが、まあ大袈裟なことは考えずに、思い立ったら今日にでも伺いなさい」と言い捨てて、内大臣は出ていきました。

 

 

5.ヒヤシンス君の姉アンジェリク貴婦人への手紙

 

 内大臣には立派な官位四位や五位の役人たちが丁重にお供をしていて、ちょっと身動きをしただけでも威厳がある勢いなのを見送りながら、「まあ、私の父は何て立派な御方だったのだろう。そんな父の娘でありながら、私なんか賎しい小さな家に生まれたものだ」と呟きますと、侍女の舞姫が「あまりに偉すぎて、気が引けてしまいますね。もっと頃合いの身分の、大事にしてくれそうな父親に引き取られていた方がよかったですね」と言うのも、分別に欠けています。

「いつもながら、貴女は私の言うことをぶち壊してしまうようなことを言うのが目に余ります。もうこれからは友達口調で話さないでください。私はもう貴女とは身分が違うのですからね」と立腹した顔つきは、親しみやすく愛嬌があり、ふざけているところも、それはまたそれなりに罪がありません。やはりイスラム教徒たちの中で育ったせいか、フランス風のものの言い様を知らないだけなのでしょう。

 

 何でもないような言葉でも、ゆっくりした声で落ち着いて話し出すと、聞く耳にもよいことのように聞えます。大したこともない歌を会話に混ぜる時も、声使いがしっくりしていて、余韻があるように思わせますし、歌の始めと終わりを低い声で誦すと、深い意味合いなどを考えない程度で聞く限りは、「面白そうだ」と耳にとまるものです。たとえ非常に深い趣があることを言ったとしても、早口ですと「よいことを話している」と聞える訳がありません。軽薄な口調で言い出すと、ぎすぎすしてしまいますし、訛りもあります。

 フランス語は乳母の懐で勝手気ままに習得した程度とも言えるので、あやふやな部分があって、貧弱でした。とは言うものの、見下げてしまうほどでもなく、押韻派風の詩でも前後の辻褄が合わないながらも、早口で詠み作ったりします。

「せっかく、内大臣がアンジェリク貴婦人の所に行きなさいとおっしゃるのだから、渋っているようにしていたら不愉快な思いをされるだろうし、今夜中に行くことにしよう。内大臣がよくしてくれたとしても、城内にいる婦人方にすげなくされてしまったら、この城内で立ち回ってはいけない」と口にしますが、確かに城内ではまだ軽々しく見られています。

 

 まずアンジェリク宛てに手紙を書きました。

人知れず 思いをはせていますのに 近くにいても お逢いする手立てがありません」、「立ち寄ってみると 影を踏む程度の近さですが 誰が『来るなという関所を設けたのでしょうか」といった、知っている二つの歌を取り混ぜて

(歌)お側近くにおりながら 今までお伺いすることができなかったのは 誰かが「来るな」という関を設けたからでしょうか

と書いて、続いて

(歌)ボース平野の 高貴な野花のような御方と私を どのように結びつけたら良いのか 分からないので 

   もやもやしております 私は一体 貴女様と どのような血縁があるのでしょうか

「まことに失礼ながら、失礼ながら」と点ばかり多い書き方で書きました。

 

 紙の裏面には、「本当です。今宵にでも伺おうと思い立った理由は「憎さだけが増す 田の池の 練ってもいない縄は 嫌われるために生えている」、水が地下に潜った川底の 水屑のような 取るに足らない身ではありますが 恋しい手をさしのべて欲しいの二つの歌から引用して、

(歌)憎まれるために生きているような 川底の水屑ですが 恋しい手をさしのべてください

と書いた後、端の方に

(歌)未熟者ながら ミディ・ピレネーの浦の いかが岬の アラカション浦で 何とかお逢いしたく マルヌ川の水辺にて

などと詠んでいますが、フランスの地理を把握していないまま、地名をごちゃまぜにしています。

 

 一重ねの青い色紙にアラビア文字風なのでしょうか、大層崩し文字がちに書きますが、肩に力が入りすぎているのに逆にふらふらした書体になっていて、「mやn」といった文字は気取って長く伸ばしています。一行ごとに端に行くほど斜めに曲がって、折れそうになっていますが、ヒヤシンスはにっこりしながら見やった後、さすがに上品そうに細く巻き結んで、撫子の花の枝につけました。

 奉公馴れをしている小奇麗な新参者で、厠掃除役になった女童が使いになって、アンジェリクの部屋の侍女控え所に行き、「これを差し上げてください」と頼みました。下仕えの侍女が童女を見知っていて、「北の対に仕え始めた童女だ」と撫子の花を受け取りました。

 侍女の位が五位の大輔の君と呼ばれている侍女がアンジェリクの許に持って行って、撫子の枝についた手紙を開いてお見せしました。

 

 アンジェリクはざっと目を通した後、苦笑しながら下に置きましたが、近くに侍っている位が三位の中納言の君が横目で見やりながら、「何だか、とても洒落た文書のようでございますね」と読みたそうにしています。

「この崩した文字が読めないせいなのか、歌の始めと終わりが論理的に一貫していないように見えます」と言いながら、手紙を中納言の君に渡しました。

「返信はたしなみ深く書かないと、『拙い』と軽蔑されてしまいますね。読んだついでに返事を代筆しなさい」と任せましたので、周りの若い侍女たちは露骨に笑いはしませんが、「やぶ蛇になってしまいましたね」とおかしそうににやついていました。

 

 使いの童女が返信を催促しますので、「おかしな古い歌ばかりを引用していますから、返事を書くのが難しい。明らかに代筆めいては失礼ですから」とこぼしながら、中納言の君はアンジェリクの筆跡のように書きました。

「お近くにおられるのに、疎遠にされることは恨めしいことです。

(歌)ディ・ピレネーのボルドーの海の サン・マロの浦に波が立っていますが ル・アーブルでお待ちしています

と即興で思いついた歌を詠み上げますと、アンジェリクは「何か困った歌ですね。本当に私が詠んだ、と言い触らされてしまったら」と当惑した顔をしましたが、「返信を受け取った人が読んで分かりさえすれば」と中納言の君は無理やり返信を押し包んで童女に渡しました。

 

 返信を読んだヒヤシンスは「しゃれた歌だこと。『お待ちしています』とおっしゃっておられる」とすぐに仕度を始めました。非常に甘ったるい薫り物を返す返す衣服に焚き染め、紅というものを顔に真っ赤に塗りつけ、髪を梳いて化粧をしますと、それ相応に賑やかで愛嬌がありますが、アンジェリクに対面した際に、さぞ出過ぎた振る舞いもすることでしょう。

 

 

 

                著作権© 広畠輝治Teruji Hirohata