その33.藤裏葉 (ヒカル 満38歳 3月~10月)
1.夕霧と雲井雁相思の懊悩。内大臣、夕霧に折れる
サン・ブリュー姫の王宮入りの準備で皆が多忙で忙しがっている中、宰相中将の夕霧は物思いに沈みがちで、ぼんやりとした気持ちで過しているのは、自分ながら不思議な感じでした。
「我ながら執念深いことだ。これほど一途に雲井雁に恋焦がれているうちに、叔父の内大臣は
(歌)人に知られないように 私が秘かに通っている道で 私が女と逢えるように 夜になると眠っているようだ
といった気分で気弱になっている、と聞く。どうせなら、人からつべこべ悪く言われないためにも、公然とした結婚ができる時まで待っていよう」と我慢をしながらも、やるせなく思い悩んでいました。
雲井雁の方は、父の内大臣がちらっと漏らした、夕霧と王室担当卿の姫君との縁談の噂を、「もしそれが本当なら、私には何の未練もないのだろうか」と歎いていました。お互いに背を向け合う形になりながらも、そうは言っても、相思相愛の仲でした。
アントワンはあんなにも強情を張っていたものの、次第に激昂も弱まっていて、「あの王室担当卿がそのように決めているのなら、それを断念させて別の婿を物色させるようにすると、夕霧にとっても難儀なことになるし、娘の雲井雁も世間から失笑されてしまうことになって、自然と軽率な噂の種になってしまうだろう。二人の仲を隠そうとしても、内輪の出来事であるにせよ、すでに世間に漏れてしまっている。何とかうまく取り繕いながらも、やはりこちらから折れていくべきか」と考えるようになって行きました。
上辺は何気ないふりをしながら、夕霧の恨みが解けない間柄になっていますから、「不意に雲井雁との結婚を申し出るのも、いかがなものか」と反問したりもしました。
「改まって仰々しいことにすると、世間の反応もおかしなことになってしまう。どういった機会に切り出してみようか」などと考えあぐねているうちに、サン・ブリュー姫王宮入りなどで遅れていた、三月二十日の大宮の命日が、一か月遅れの四月二十日にフォントヴロー(Fontevraud)僧院で執り行われることになりました。
内大臣は息子たちを引き連れて、望ましいばかりの威勢で僧院に向いましたが、法会には王宮の上官たちなど、大勢が参列しました。十七歳を迎える夕霧は誰に較べても、中々どうして引けをとらない様子で、装いも整い、容姿も今が盛りとばかり成熟していて、どこを見ても見事な有様でした。
夕霧はあの騒動以来、内大臣を「ひどい人だ」と感じているので、出逢った際も用心深く、充分注意を払いながら、控え目にしていましたが、内大臣は通常よりも夕霧を注視していました。ヴィランドリー城からも誦経などを依頼していましたが、夕霧は万事を取り仕切って、かいがいしく法会を進めていきました。
夕暮れになって、参列者の皆が帰途につこうとする頃、花のほとんどが散り乱れ、霞がぼんやりかすむ中、内大臣は昔のことを思い出して、優雅に口をすぼめて息をつきながら眺めています。夕霧も身に沁みる夕方の景色にひどくしんみりして、周りの人々が「雨になりそうだ」と騒いでいるのに、なおも外を眺めいっています。
そんな様子の夕霧を見て、何か感じ入ったことがあったのでしょうか、内大臣は夕霧の袖を引き寄せました。
「どうして貴殿は私のことをひどく怒っているのだね。本日の大宮の法会に免じて、私が犯した不行き届きを許して欲しい。生い先が残り少なくなっていく年寄りを見限られると恨みますよ」などと語りかけますと、夕霧はかしこまって「亡くなった大宮のご遺志でも、貴方さまを信頼するように申されておりましたので、そのように心掛けておりましたものの、お許しがない様子なので遠慮しておりました」などと答えました。
雨風が激しくなってきたので、仕える人々も皆、先を争うようにしてちりぢりに帰って行きました。夕霧は「内大臣は何を思って、いつもと違って気色ばんで話されたのだろう」と常々、気にかかっている内大臣家のことなので、ちょっとしたことでも耳に残って、「こうだろうか、ああだろうか」と思いあぐねながら夜を明かしました。
2.雲井雁、夕霧に婚嫁
長い年月、夕霧が雲井雁を思い続けて来た甲斐があったのでしょうか、傲慢だった内大臣も今はすっかり弱気になって、「ちょっとした機会にわざとらしくなく、それでも相応しい雰囲気で」と考えているうちに、五月一日頃、ソーミュール城内の藤の花がとても見事に咲き乱れ、並大抵の色ではありません。このまま見過ごしてしまうのが惜しい花盛りなので、管弦の遊びが催されました。
暮れていくにつれ、色がますます鮮明に浮き上がる中、頭中将の柏木を使いにして、内大臣から夕霧に知らせがありました。
「先日のフォントブロー僧院でのちょっとした出逢いでは物足りないので、お暇でしたら私の所に立ち寄られてみられたら」とありました。
(歌)私の城の 藤の花の色が濃い黄昏時に 春の名残りを惜しみに 尋ねて来てください
内大臣からの手紙は歌に詠まれているような、大層見事な藤の枝に結ばれていました。藤を雲井雁に擬していると察した夕霧は「待ちかねていたことが」と心をときめかせながら、有り難く受け取った由の返事をしました。
(歌)黄昏時の はっきりしない頃では かえって藤の花を折るのに まごついてしまうのではないでしょうか
と詠んだ後、夕霧は柏木に「残念ながら、気後れがしてしまった。うまく取り繕ってください」と頼みました。「お供をしていきましょうか」と柏木が申し入れましたが、「煩わしいお供はいりません」と言って、夕霧は柏木を帰しました。
夕霧は父の居間へ行って柏木の訪れを報告し、内大臣の手紙をヒカルに見せました。
「何か考えるところがあって呼び出すのだろう。自分の方から折れてきたのだから、大宮が雲井雁と結ばせようとした助言を拒んでしまった親不孝への恨みも解けていく、ということだろう」とヒカルが得意気に話すのは憎たらしい感じもします。
「いいえ、そういうことではないでしょう。ソーミュール城でも藤の花が例年よりも面白く咲いたので、閑暇な頃でもあるから、遊宴をしよう、ということでしょう」と夕霧は答えましたが、「とにかく、わざわざ使いを寄越したのだから、早く行ってあげなさい」とヒカルは許しを出しました。
「それでも何があるのだろう」と夕霧は内心では胸騒ぎがして不安でした。
「今着ている上着は色が濃すぎて、軽々しく見える。まだ正式な参議(宰相)でもないし、何という役職もない若者なのだから、赤みがかった灰青色がよいだろう。身なりをきちんと整えて出掛けなさい」とヒカルは自分用の上着の中から結構なものを選び、それに見事な中着類をつけて、夕霧のお供に持たせました。
夕霧は自室で入念に身じまいをした後、黄昏時が過ぎて迎える側がじれったくなる頃にソーミュール城に着きました。柏木中将を筆頭に内大臣の息子たち七、八人がうち揃って出迎えました。息子たちも、誰ともなくいずれも優雅な姿でしたが、息子たちより夕霧の方が勝っていて、水際立った鮮やかな美男子に見えながら、由緒ありげに奥床しく恥かしげでした。宴席に迎える席をきちんと設けているなど、内大臣の用意は一通りではありません。
きちんとした冠をかぶった内大臣は宴席への出しなに、正夫人や若い侍女などに声をかけました。
「覗いてみなさい。あの男は歳をとるほど、ますます立派になっていく人物だ。態度なども非常に落ち着いて堂々としている。はっきり抜きん出て成人したところは父親の太政大臣よりも勝っているようだ。父親の方は単に優美で艶っぽい愛嬌があるので、見ている者も自然と笑顔になって世の中の辛苦を忘れさせる気持ちにさせたりする。しかし政務の面では柔軟すぎて謹厳さにかけているのは仕方がないことだが。これに対して息子の方は学才も父親より勝り、心構えも男らしい上に真面目で、すべてが備わっていると、世間でも評判となっている」と話した後、身なりを正して夕霧と対面しました。
儀礼的で堅苦しい挨拶は少しばかりにして、藤の花の宴に移りました。
「春の花というのは、どの花でも皆、花を開き出す色ごとに目を驚かさないものはないが、花の命は短く、見る者を置き去りにして散ってしまうのが恨めしくなる頃に、藤の花は一歩立ち遅れて初夏にまで跨って咲く、というのは (歌)藤の花は 松に掛かって咲くものと思っていたが 夏へ掛かって咲くものなのだ といった歌にもあるように、妙に心憎い哀れみを感じる。色だって、なつかしみに由縁する出来ぶりだ」と内大臣は微笑みますが、その気配は生き生きとして、顔色もつややかでした。
月は上がっていましたが、藤の花がはっきりと見えないくらい霞んでいました。それでも藤をめでる宴として酒杯が酌み交わされ、管弦の遊びが行われました。ほどなくして、内大臣は酒に酔ったふりをしながら、夕霧に無理に酒を強いて酔わせようとしますが、夕霧は用心しながら酒を断わるのに苦労していました。
「貴殿はこの末世の世に出来過ぎるほどの、天下の学才がある人なのに、この年寄りの酌を受けてくれないとは辛いことだ。古い書物でも『他人でも親に準じて敬うこと』と書いてある。学識者だから古人の教えにもよく通じていると思っているが、私にひどく辛い思いをさせるとは、恨みたくもなる」と気色ばみながら、酔い泣きのように上手い具合に意中をほのめかしました。
「そんなことはありません。亡くなられた方々の身代わりとして、叔父様に我が身を捨ててでもお仕えもうそうと決意しております。それなのに、なぜ、そのようにおっしゃるのですか。元々愚かな私ですから、至らなかったのでしょうか」と夕霧はかしこまって答えました。
「今がその時だ」と内大臣は浮き足立つように、(歌)春のうららかな日が射す 藤の裏葉のように 貴方がすっかり打ち解けて 私を愛してくれるなら 私も身を任せます という歌を誦じました。父の心情を察した柏木が、藤の花の色が濃く、特に房が長いのを折って、客人の盃に添えました。
夕霧がもてあましていると、内大臣が詠み出しました。
(歌)藤の花が待ちすぎてしまったのは 恨めしいことだが 官位の紫色が濃くなったことに免じて許すことにしよう
夕霧宰相は盃を持ちながら、ほんのわずか頭を下げて謝意を表した様子は、奥床しい趣がありました。
(歌)私も幾度となく 湿っぽい春を過して来ましたが 今日初めて 藤の花をひもとく機会を得ることができました
と夕霧が詠んだ後、盃を柏木に廻すと、柏木が詠みました。
(歌)うら若い女の袖に見まがう藤の花 それを眺める人がいるからこそ 色が一層美しさを増す
柏木の歌の後、次男以下、息子たちに次々と盃が廻り、それぞれ歌を詠みましたが、すでに酔いがまわっているのでてきぱきとは進まず、結局、柏木が詠んだ歌に勝ったものはありませんでした。
七日目の上弦の夕月の影もほのかで、池の水が鏡のように穏やかに澄み渡っています。まだまだ若葉がまばらな梢が物足らない頃でしたが、さして小高くはないのに大層気取って横たわっている松に絡み付いている藤の花の有様が世の常でないのが面白く見えます。
例の美声の弁少将ロランがなつかしい声で「真垣をもかきわけて あの娘を背負って越えてゆく 誰がこのことを親に告げ口したのだろう」と催馬楽「葦垣」を謡い出しました。「実に妙な歌を謡うではないか」と内大臣は興じながら、「年を経たこの城の弟嫁が告げ口をしたのだろう」と歌の続きを添えて謡う声はとても味わいがありました。
風雅を失わない程度に取り乱した宴を通じて、内大臣と夕霧の間のわだかまりは解けていったようです。夜が段々と更けていくうちに、夕霧はしたたかに酔ったふりをして、「気分が悪くなって、非常に堪え難くなってしまいました。帰り道が覚束なくなってしまったので、泊る所を貸してくれませんか」と柏木中将に訴えました。
すると内大臣が「君、寝所の手配をしてあげなさい。年寄りはひどく酔いがまわって失礼になるから、引っ込むよ」と言い捨てて、自室に戻って行きました。
「藤の花の蔭での旅寝となりますね。どうしましょうか。私は辛い案内役になってしまうのか」と柏木中将が言うと、「『緑なす松に掛かった藤だけど 自分の時節だと 花を咲かせている』といった歌のように、松に寄り掛かかる浮気性の藤の花、という意味ですか。縁起でもない」と夕霧は柏木に反発しました。柏木は内心では「妹の初夜への案内役などいまいましい」と感じてもいましたが、夕霧の人柄が申し分なく、めでたい話しでもあり、「いずれこうなるだろう」と好意を寄せてもいたので、気安く妹の部屋に案内しました。
夕霧は「夢ではないか」と思いながらも、ここまで意地を張り通した我が身に誇りを感じました。五年ぶりに再会した相手の雲井雁は非常に恥かしそうに顔を赤く染めていましたが、すっかり大人になった様子に不足する所はなく、感じがよいものでした。
「私は世の中の笑い者になってしまう身でありながら、じっと堪え忍んでようやく貴女への思いが許されたのです。それなのに貴女は同情もしてくれず、先日の手紙でも普通とは違う冷やかな態度でしたね」と夕霧は雲井雁を恨みました。
「ロラン少将が意識して謡った『葦垣』の趣旨に耳を留めましたか。ひどい人ですね。『河口の関所の荒垣よ あの娘を守ろうとしても 私は抜け出して 娘と寝てしまったよ』と謡い返したところでした」と夕霧が告げると、雲井雁は「実に聞き辛いことを言われる」と思って、詠みました。
(歌)関所の荒垣で 貴方の口先は どうして 前から逢っていたなどと 軽々しく言い漏らしたのでしょう
「呆れること」と詠む様子はまだ子供めいた無邪気さでした。
夕霧は少し笑いながら返歌を詠みました。
(歌)そんな浮気の噂を流したのは 関所を守る貴女の父なのですよ 私の口の軽さのせいにしないでください
「長い年月に積もった辛さと悩ましさで正気ではなくなってしまった」と酔いにかこつけて、苦しそうなふりをしながら、夜が明けていくのも知らぬ顔をしていました。
侍女たちが気をもんでいるのを見て、「得意顔をした朝寝だよ」と内大臣が諭しました。とはいうものの、さすがに夕霧はすっかり明けきらない前に帰って行きました。寝乱れて、だらしない朝の顔姿は一見する価値がありました。
初夜の翌日の夕霧からの手紙は、これまでのように人目を忍ぶ心遣いで送られて来ましたが、雲井雁は恥かしいのか、かえって今日は中々返信を書こうとはしません。それを見た口さがない侍女たちは肩などを突き合っていましたが、ふいにやって来た内大臣に目撃されたので、ばつが悪い思いをしました。
「昔と同じように、昨夜も打ち解けてくれない様子でしたので、一塩、我が身のほどを思い知らされました。堪えきれない気持ちのまま、消え入ってしまいそうです」。
(歌)人目を忍んで絞る手にも力が入らず 今日は袖の涙のしずくが人目につきそうですが 咎めないでください
と、夕顔の手紙は馴れ馴れしく書いてありました。
手紙を読んだ内大臣は一笑して、「筆跡がとても上手になっている」と言いながら、もはや夕霧を恨んだ、かっての名残りはありません。雲井雁が返信を書き渋っているので、「見苦しいことだ」と言いつつ、父親の前では書き辛いことに気付いて、部屋から出て行きました。
内大臣は夕霧の使いの者に格別の俸禄を授け、柏木中将が使いを丁重にもてましました。これまで使いはいつも人目を避けながら、隠れるようにして夕霧の手紙を届けていましたが、今日は晴れやかな面持ちで、堂々と振舞っていました。右近衛府の官位六位の将監を務める男で、夕霧は日頃から気安く使っていました。
3.ヒカル、夕霧に訓戒
ヴィランドリー城の太政大臣も昨夜の出来事を知って、息子を呼び出しました。夕霧宰相がいつもより輝いた顔をしてやって来たのを、ヒカルはじっと見やりながら、「今朝はどうしたか。もう手紙は書いたのか。賢明な者でも女性に関しては失敗してしまう例があるからな。かたくなに初恋にこだわり、焦りもせずに潮時を待っていたというのは、少しは人より抜きん出た心を持っていたことを認めよう。内大臣の態度があまりに辛らつだったのに、その名残りがないように腰砕けになったことを世間の人は何かと評することだろう。だからと言って、こちら側は偉そうな顔をして自慢したり、浮ついた心持ちなどを出してはいけない。あの内大臣はおおらかで寛大な心構えを持っているように見えるが、本心では男らしくない性癖があって、相手を気詰まりにさせるところもある人だからな」などと、例のように教え諭しました。それでもヒカルは「うまく釣り合った、恰好の組み合わせ」と感じていました。
二人が一緒にいると、夕霧が息子には見えず、ヒカルは少し年上の兄のように見えます。確かに別々にいると、同じ顔を映しとったように見えますが、二人が並んでいるのを見ると、それぞれに特徴があり、二人とも立派に見えます。
ヒカルは薄色の上着の下に、イタリア織りめいた紋様が鮮やかな、つやつやと透いた白い普段着を着ていますが、相も変わらず高貴で優雅に見えます。一方の夕霧宰相は少し色が深い上着の下に、焦げたように染み込ませた丁子染めに白い綾織りを重ねた親しみが持てる中着を着ているのが、ことさら引き立って艶っぽく見えました。
聖霊降臨祭の日にあたるので聖母子像が据えられ、導師が遅れてやって来たので、日が暮れてから、ヴィランドリー城の婦人方が女童を使いにして、王宮と変わらないように思い思いにお布施をしました。王宮での作法を真似て、王宮の役人たちも参集していましたが、堅苦しい王宮よりもかえって妙な気配りをして、気後れがしていました。
夕霧宰相は気持ちが落ち着かないまま、より一層の身繕いをして、雲井雁が住むソーミュール城へ出掛けました。深い因縁はないものの、夕霧に好意を抱いていた若い侍女たちの中には、「妬ましい」と思う者もいました。
積もる年月の恋しさに加えて、思い通りの間柄になれたことから、(歌)水が漏れる隙間もないほど 固く結ばれた仲なのに どうして逢い辛くなってしまったのだろう といった歌のような、夕霧の心境でした。
ソーミュール城の主の内大臣もますます間近に見る夕霧を可愛い者に思って、この上もなく大切に迎えました。内大臣は根競べに負けた口惜しさをまだ感じてはいましたが、罪も残りはしない程の夕霧の誠実さ、長い間、他の女性に心を移さなかったことから、きれいさっぱりとした心境で夕霧を受け入れました。
雲井雁の様子は、王宮に上がっているアンジェリク貴婦人などより華やかで美しく、理想的と言えるほどでしたから、内大臣の正夫人やアンジェリクに仕える人々は「快いことではない」と言い出す者もいましたが、別段気にするもありません。雲井雁の実母である地方担当次席大臣の正夫人などは、こうした結果になったことを嬉しがっていました。
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